誘導のやり方

誘導のやり方

前にも書きましたが、人間はトランス状態に簡単に入ることができます。
例えば、ぼ〜〜〜〜〜っとしているだけでもトランスに入りますし、何かをじ〜っと見つめているだけでもトランスに入ります。
エロゲしているときなんて、トランスに入りまくりです(笑)

とはいえ、簡単に入ったトランスが暗示の入る深さに達しているのかは状況や被暗示性次第ですし、術師が能動的にトランスに入れること、相手が自分は催眠に掛かったと認識してくれることは、以降の施術の難易度を大きく下げます。
そのため、ある意味儀式的ではありますが、誘導というプロセスが必要になるのです。


誘導には大きく分けて2種類あります。

1. 身体の仕組みを使って誘導する方法
2. 心の仕組みを使って誘導する方法

実際には100%どちらかに分類されるというわけではなく、両方の要素を兼ね備える誘導方法が多いのですが、分かりやすくするため2種類に分類しました。


まず、1.身体の仕組みを使って誘導する方法ですが、この方法には2つの要素があります。

1-a. トランスに入るような身体の状態を作る要素
1-b. 身体の自然な動きを利用して思いこませる要素

人間はある行動をしたり、ある身体の状態を作ることで(軽い)トランスに入りますが、その現象を利用するのが1-aです。
例えば、身体の部分部分を順番に脱力させていく分割弛緩法はこの典型です。
頭を回転させる回頭法、脳を一時的に酸欠状態にする頸動脈圧迫法、身体を擦る撫擦法などもこの分類に入ります。

分割弛緩法は催眠音声に適しています。
自己催眠にも多用されるぐらいで、脱力という誰にでもイメージしやすい手段を使った比較的成功しやすい手法だからです。
弛緩の順番には色々なやり方があり、目の周り→あご→肩とだんだん降りていくもの、肩→手→…→足先→頭と進むもの、足先→膝→太ももと末梢からだんだん上がってくるもの、などがあります。
それぞれに長所はありますのでどのやり方でもいいですが、被催眠者に混乱を与えないように一貫した順序で脱力させるのがコツです。


トランスというのは心のあり方ですから、自分はトランスに入っている、と思うだけでもトランスに入ります。
2の心の仕組みを使う誘導方法はこれを利用するわけですが、身体の仕組みを使ってこの状況を作ることもできます。
例えば、催眠の流れに挙げたカタレプシーの誘発はこの典型です。
拳をぎゅっと握った状態ではとっさに指が開きにくいという現象を利用して、術師が『指が開かない!』と言う→本当に開かない(開きにくい)→自分は催眠に掛かってしまったんだ(と思い込む)→ますます開きにくくなる、という流れを作るのです。
これが1-bです。


ほとんどの場合、1-aと1-bを組み合わせて使います。
催眠誘導の典型的な手法としては何かを見つめさせる凝視法がありますが、これは原理自身は1-aですが1-bの要素も組み合わせるのが一般的です。

凝視法の誘導の一例を挙げて説明します。

このライターの炎をじっと見つめて
意識を集中して、じ〜っと、じ〜っと、見つめて
じ〜っと見つめていると、意識が炎に吸い込まれてくる
意識が炎に吸い込まれてくると、まばたきが増えてくる
そう、だんだんとまぶたが重く、重〜くなってきて、まばたきが増えてくる
見つめれば見つめるほど、まぶたがどんどん重くなってきて、もう目を開いていることができない
そう、あなたは深〜い、深〜い、とても気持ちのいい世界に、す〜〜〜〜っと入っていく

単純に炎を見つめているだけでも軽いトランスには入りますが(1-a)、暗示が入るレベルのトランスに誘導するためにさらにたたみかけています(1-b)。
タネ明かしですが、炎のようにゆらゆらと動いて明るいものをじっと見つめていたら、なにもしなくても目が疲れてまばたきは増えます(笑)
上記の暗示文を注意深く読んで欲しいのですが、何らかの理由で確実に起きる事象と起きて欲しい事象を組み合わせています。
『まばたきが増えてくる』のは確実に起きる事象であり、『意識が炎に吸い込まれてくる』と『まぶたが重く』なるのは起きて欲しい事象です。
人間とは不思議なもので、確実に起きる事象Aと起きて欲しい事象Bを組み合わせることで、Aが起きたのだからBも起きるのだと思い込んでしまいます。
あるいは、Bの前提でAが起きた以上、Bは正しいと思い込みます。
『見つめれば見つめるほど』と『まぶたがどんどん重くなる』の組み合わせも同じ構造です。
目を閉じさせてしまえばこっちのもので、この時点で被催眠者はトランスに入る覚悟が完了していますので、追い込んで一丁上がりです(笑)。


次に、心の仕組みを使って誘導する方法ですが、この典型はトランスに入りやすいイメージを想像させるイメージ法です。
また、混乱させることで心の隙を作る混乱法や驚愕させることで隙を作る驚愕法もこの分類に入ります。
トランスに入りやすい心の状態を作ることで、トランスへの敷居を下げて誘導していきます。
典型的な催眠状態での身体の状態をイメージさせる自律訓練法は1と2の組み合わせといえるでしょうね。

催眠音声では、イメージ法が使いやすいです。
イメージ法でよく使われるのは、降りる、落ちる、潜る、などの心の奥に入っていくことを連想させるイメージと数字のカウントを組み合わせる暗示文です。
階段を降りる、エレベーターで下る、空から落ちる、海を潜る、などをイメージさせながら、段数や階数、高さ、深さを示す数字をカウントアップしたりカウントダウンしたりします。
カウントには深化の効果もありますので、イメージ法による誘導の場合には深化を組み合わせるのが一般的です。
深化の場合はカウントダウンのほうが効果的とされますが、イメージの内容によってはカウントアップのほうが自然なこともあります。
カウントに連動させて弛緩させると、より効果が上がります。

あなたの目の前に20段ある下り階段があります
一段降りるたびに、あなたは深〜い、深〜い、気持ちのいい世界に入っていきます
20、19、18、17、16、
降りれば降りるほど、身体中の力が抜けていく
15、14、13、12、11、
どんどんと気持ちのいい世界に入っていく
10、9、8、7、6、
身体の力はますますと抜けていく
5、4、3、2、1
はい、あなたはいま、とてもくつろいだ気持ちのい〜い眠りの中にいます
前へ 次へ